御社の新規事業はなぜ失敗するのか?~企業発イノベーションの科学
書名:御社の新規事業はなぜ失敗するのか?~企業発イノベーションの科学
著者:田所 雅之
新規事業に携わるものとして、何等か成功のコツを掴みたいと考え手に取った。
■新しく知った知識/視点 (書籍本文の引用/一部編集)
〇現状認識/トレンドについて
・従来、ユーザー側は情報・チャネルが限られており「高機能=良いもの」という認識を促されていたが、現在、顧客は常時、さまざまなデバイスを通じてインターネットに接続されている。プロダクトの比較情報や口コミ情報を容易に手にいれられるようになり、情報の非対称性は解消された。
・利幅の良い商品の販売を優先するなど、Product Market Fitよりも、Product Channel Fit(チャネルが売りやすいものを売る)ことが優先される場合がある。つくり手都合、都合のカイゼン、差別化が良く行われている。
・商品・サービスのライフサイクルが加速し、短命化が進んでいる。ユーザーが移り気になっている。いきなり「欲しいもの」が突きつけられ、気に入ればただちに「ポチる」のが当たり前の時代。マーケットの変化スピードが速く、「自前主義」のイノベーションでは立ち行かない。
〇イノベーションについて
・イノベーションの本来の目的は、「ユーザーの生産性」や「ユーザーの生活の質」を劇的に向上させること
・イノベーションとは「目的」ではなく、「手段」であるということだ。自分たちが思い描くあるべき姿(ビジョン)に変えていく。その手段として、「イノベーション」が存在する。
・いかに領域を越境する「横串」の発想を生み出すかが重要。イノベーションは、「一見すると関係のない要素」を疎結合することから始まる。コンソーシアムへの参加は、業界横断的な交流を行ううえでもプラスに作用する。
・アイデアがアイデアとして成り立つか(Proof of Concept:概念実証)ではなく、アイデアにどれくらいの顧客価値があるか(Proof of Value)を。
〇事例
・Netflixは、既存事業とのカニバリゼーションを怖れず、また、当時の通信環境が貧弱であったにも関わらず、ムーアの法則により将来高速通信が低価格で普及することを見越して、ストリーミング配信へと方向転換した。
・なぜKDDIは「最もイノベーティブな企業」だと言われるのか?
https://globis.jp/article/5263
〇学習法/考え方
・自分の生きてきた中で、影響を最も受けたイベントは何だったのか? なぜ、それから決定的な影響を受けたのか?自分の感じる世の中の、「理想」と「現実」のギャップを書き出してみるのも有効だ。そのギャップを埋めるための手段や戦略の中に、Wantが隠れている場合がある
・良質なインプット。Yコンビネータのデモデーでピッチするスタートアップは3~5年後の市場トレンドを映す鏡である。
”Y Combinator 2019年冬クラス、Demo Day 1日目のスタートアップを一挙紹介”
〇3階建て組織とは
1階:「コアビジネス」を手掛ける。これまで利益を生んできた事業にフォーカスするプロダクト・パスト・マーケット・フィット(PPMF:Product Past Market Fit)。KPIはPL。
2階:連続性のある「新興ビジネス」を育てる。新たに現前したマーケットにフィットすること、つまり、プロダクト・カレント・マーケット・フィット(PCMF:Product Current Market Fit)。KPIはどれくらいシェアを伸ばしたか、どれくらい売上を伸ばしたか。
3階:「破壊的イノベーション」に向けて動く。プロダクト・フューチャー・マーケット・フィット(PFMF:Product Future Market Fit)未来のマーケットを生み出す。KPIは新しいインサイトをいくつ発見したか?仮設→検証の施行回数
■感想
イノベーションを担う組織は、事業組織とは別に作るという考え方など、他のイノベーションを扱った書籍でも良く見かける考え方が多いと感じたが、本書のキモは、Product Market Fit(ユーザーが欲しいものを作る)という視点、及び、3階建て組織、という考え方であるという点は良く伝わった。3階建て組織の3階から1階への遷移とプロダクトポートフォリオマネジメントの対応付けの図(図35)しておきたい。成果を残している同い年の著者と比べ、自分を振り返ると情けなくなってしまうが、これから頑張りたい。
個人的な評価:★★★★☆(4.0)
出世するなら会社法
書名:出世するなら会社法
著者:佐藤 孝幸
仕事において合弁やカーブアウトなどの話題が挙がることがあり、会社を運営するとはどういうことなのか?起業するにはどういうことを知っておく必要があるのか?を知りたいと考え、この本を手に取った。
「役員」「株主と経営者」「少数株主」「起業」「親子上場、経営者による企業買収(MBO)」「敵対的買収、公開買い付け(TOB)」「新株発行」「倒産」の項目に関して触れられていた。
■新しく知った知識
・執行役員:経営の監督(=取締役会)と執行(=執行役員)を分離することで機動的な経営を行うことが目的。役員ではないけれど、従業員のトップ、「役員と従業員の中間的な存在」としての執行役員。
・コーポレート・ガバナンス:委任者である株主とエージェントである経営者の利害は一致しない。これをいかに低減・解消するかとい議論
・少数株主の権利:一部の多数派株主の不正に対抗するための手段。意見を言う、情報にアクセスする、不正を咎める。3%以上に意味がある。
・種類株式:優先株式(優先的に配当を与える)は社債(一定の利息がつく)に近い。など9種類が例示
・株式公開:不特定の投資家から出資を募ることができる、知名度があるなどメリットがあるものの、敵対的買収を仕掛けられるリスクがあるので、MBOで非公開化する場合がある。
・持株会社:ホールディング・カンパニー。企業グループの経営資源の効率化(資金、設備、ノウハウなどの融通)によるグループ経営。
・敵対的買収:株主と経営者との間に利害対立がある。買収防衛策(既存株主向けの新株予約券の発行など)や株式持ち合いなどの対策がある。
・新株発行:①株主割当て:持株割合に応じて新株予約券を割り当てる、②第3者割当:特定のものだけに新株を割り当てる、③公募
■感想
なぜそういう制度になっているか?理由についての説明もあり理解が深まった。良く聞くが正確に理解していない単語(種類株式、MBO, TOBなど)の理解ができた。各章のサマリが章末に設けられており、将来の振り返りの際にリファレンスとして便利な書籍であると感じた。
個人的な評価:★★★★☆(4.0)
やりなおし高校地学 ──地球と宇宙をまるごと理解する
書名:やりなおし高校地学 ──地球と宇宙をまるごと理解する
著者:鎌田浩毅
最近、地質や鉱物などに興味があるにも関わらず、学生の時に地学を学習したことが無かったため、手に取った。地学は、ミクロの鉱物からマクロの宇宙の果てまで、「固体地球」「岩石・鉱物」「地質・歴史」「大気・海洋」「宇宙」という広範囲を取り扱う学問とのこと。
■新しく知った知識
・マントルが、海洋プレート由来の水によって融点が下がるとマグマになる。
・日本は世界の400分の1の面積だが、世界の10%の地震が起こっている
・世界の活火山の約1割が日本にある。
・火成岩はマグマが冷却して固まってできた岩石。堆積岩は 、礫 や砂粒、粘土といった物質が堆積することによってできた岩石。変成岩は、温度や圧力などで鉱物が化学変化した(変成した) 岩石
・オゾンが紫外線を吸収する結果、成層圏では高度が高くなるにつれて気温が高くなる
・潮汐力は引力と遠心力の合成。地球、月、太陽が一直線に並ぶと大潮
・エルニーニョはペルー沖で低温の深層水が上昇してこないことが原因
・平安時代は今よりも温暖な時期だったが、14 世紀以降は寒冷化。長い視点で見ると、現代は寒冷化に向かう途中の、「短期的な地球温暖化」にある。
・宇宙誕生から 38 万年たったころ、電子と原子核が結びついて「原子」が誕生した。宇宙空間を霧のように覆っていた電子が急速に減り、光が宇宙空間を通過できるようになった(宇宙の晴れ上がり)。
・宇宙の構成要素。通常の物質4%、ダークマター23%、ダークエネルギー73%。
・小さな恒星の方が寿命が長くなる。大きい星は重力が強くなり、水素の核融合反応も激しくなり水素の消費量が大きくなる。
・私たちの銀河系のような「銀河」が2兆個以上あり、1つの銀河は、数百万~数千億個もの「恒星」で構成されている
■感想
地学はスケールの大きい話が多く、気分転換には良かった。新しい知識もたくさん得られた。地学は日常の悩みがちっぽけなもののように思える点が良い。大学センター試験の問題/解説欄は、読書の流れが断ち切られるように感じた。
個人的な評価:★★★☆☆(3.0)
はじめて読む人のローマ史1200年
書名:はじめて読む人のローマ史1200年
著者:本村凌二
『ローマ人の物語』など話題になっているにも関わらず、世界史に疎いため、手っ取り早くローマ帝国に関する知識を得たいと思い手に取った。
●経済面
・十八世紀までの人類史のなかで、ローマの五賢帝時代(二世紀)の自由民の所得が一番高かった。
・商業 蔑視 はローマに限ったものではなく、前近代を通じて言える価値観です。商業は、他人が作ったものを右から左に動かすだけで利ざやを得る 卑しい行為、というのが当時の考え方でした。
・ローマのような奴隷制社会では、かなりきつい労働でも奴隷にやらせるので、もっと楽にできる方法はないか、もっと効率が良くならないかといった改良や工夫、新たな道具の発明が起きにくくなる。
⇒ 価値=モノの呪縛から離れ、サービスに価値を見ると、商業の価値が見える。
⇒ 楽を覚えると成長しない、苦労してこそ成長できる。
●文化面
・最終的には自分が子孫から「父祖の遺風」として重んじられるように生きる
・ローマ人の死生観を象徴しているのが、彼らが 墓碑に刻んだ言葉です。 「われわれは 無 である。考えてもごらん。これを目にする人よ、われわれ人間は何と 瞬くうちに、無から無へと回帰することか」 この言葉から、ローマ人にとって、死は「無に 帰す」こと、がわかります。
⇒ 死後の世界を信じるのではなく、事績を後世に伝えることに価値をおいた。ローマ発展の礎は、高貴な「生き方」にあると感じた
●制度面
・万民法には「現地のやり方に従え」とあるだけです。
⇒ 統治コストと統制のバランス。何を与えて、何を与えないか?
歴史的なできごとの記述だけだと興味が薄れてしまうところを、ローマ帝国を支えた、カルチャー、社会制度についての記述が充実しており、興味深く読むことができた。名前だけは知っている皇帝が、実際何をしたのかということも理解できてよかった。入門編という感じの書籍で深みはなかったので減点。
個人的な評価:★★☆☆☆(2.0)
管理者の判断力 ラショナル・マネジャー
書名:管理者の判断力 ラショナル・マネジャー
著者:C.H.ケプナー/B.B. トリゴー
訳者:上野一郎
職場にてKT/DA法という技術の紹介を受け、原著を手に取ってみた。
KT:ケプナー・トリゴー、DA:Decision Analysisの頭文字というところまで
は知っていたので、意思決定が主題の書籍と思ってたが、
①問題分析、②決定分析、③潜在的問題分析、④状況把握の4つの領域について
取り扱った書籍だった。うち①、②の方法論は役立つと感じた。
①問題分析:どうしてそうなったか
・対象物、場所、日時、程度の4つの視点から問題を明細化する
・「IS(起こっている)」「IS NOT(起こっていない)」の違いに着目する
・違い(区別点)がいつ発生したか。一番最近の区別点は何か?
「IS」/「 IS NOT」の対比という考え方は参考になると感じた。
問題の明細化においては、専門知識を持っていない人の参加や、
正しい質問を行う能力が重要という指摘も記憶しておきたい。
②決定分析:どういう処置をとればよいか
・絶対目標(MUST) :測定可能な目標。合否の判断ができる
・希望目標(WANT):相対的な目標。重要度で重みづけ
・複数の選択肢について、絶対目標の合否判定、および、希望目標の達成度を数値比較
・マイナスの影響も考慮し、最終的選択肢を選ぶ
適切な目標の設定をすると予期しない選択肢の評価が高くなったりする(運転手のための快適な待ち合わせ場所 vs 運転手へのリベート)
決定プロセスを見える化、数値化できるため、チームメンバー間で判断を共有できる点が良いところ。ただ、「マイナス影響の考慮」で判断がひっくり返ってしまう場合があるという記述もあり、恣意的であるとも感じた。
③潜在的問題分析:将来どんなことが起こりそうか
・危険な領域の確認→悪影響を与えそうな潜在的な問題の確認
・予防対策の確認→予防対策が機能しない場合のための緊急時用対策
将来をできるだけコントロールする。
④状況分析:何が起こっているか
・「影響度」、「時間的緊急性」、「影響拡大の可能性」の視点から重要性を選ぶ
出版年が1985年と古く読みにくさを感じるので減点。
ケーススタディが多く、方法論だけでなく、具体的な適用のイメージを抱くことができた点は良かった。
個人的な評価:★★☆☆☆(2.0)
舞妓Haaaan!!!
「舞妓Haaaan!!!(2007)」を観ました。
予想をことごとく裏切られるクドカン流の脚本を堪能しました。
最後の方、ちょっとついていけない感もありましたが・・・
それも、違和感なく回収できるところがすごいのかもしれません。
話には聞いて想像するけれども、
踏み入れたことがない(踏み入れ方が分からない)世界は、
沢山あって、憧れを抱きながらも、
自分には関係ないと諦めてしまっている自分がいます。
でも、その壁を乗り越えられるかは、
自分に託されているのかもしれませんね。
ミュージカルシーンが良かったです。さすが、真矢みきさん。そして、ミュージカルシーンのテンドンも面白かったです。
個人的な評価:★★★☆☆(3.0)
ウィルスは生きている
書名:ウィルスは生きている
著者:中屋敷 均
訳者:田沢恭子
冬場になると、「アルコール消毒でウィルスを殺してください」
なんてことを聞く度に、「ウィルスは生物じゃないし~」
みたいに思ってイラっときている理系人間だったので、
タイトルにひかれて手に取ってみました。
機能としてウィルス様の物質(?)は細胞内に多々あり、
その境界はあいまいであることは、なんとなく予想していたことだったが、
ウィルスが進化の一翼をになっていることなどは知らず新鮮に感じた。
ウィルスと進化を考える上で、バザールという比喩が面白いと感じた。
「生物ゲノムは、他者のリソースを有効に利用できるオープン型のアーキテクチャー」で、「突然変異と自然選択による地道な遺伝子改変に比べ、ウィルスは、すでに何らかの機能を持つ「商品」を持ち込むので、大きなインパクトを持っている。」
翻って、イノベーションを行うためには、要素のトライアルではなく、モジュール(商品)のトライアルを行う方が、効率的なのかもしれない、と感じた。
「ダーウィン進化する能力を持つ、自続的な化学システム」
と、そのためのロジック(進化のロジック)としての
・自己のコピーを作る仕組みを持つこと
・コピーにバリエーション(変異)を生み出す性質を持つこと
という、筆者が採用する生命の定義を踏まえた上で、
ウィルスは生きているか考えることとしよう。
バイオテクノロジーの世界は、
旧来の常識が新しい知見でどんどん更新されている学問領域であることが
よくわりかりました。
個人的な評価:★★★☆☆(6.0)