発想する会社

書名:発想する会社 

   世界最高のデザイン・ファーム IDEOに学ぶイノベーションの技法

著者:トム・ケリー&ジョナサン・リットマン

訳者:鈴木主税・秀岡尚子

 

昔、リーン・スタートアップや、デザイン思考について、集中的に調べていた時期に、購入したものの、積読になっていたので、改めて手にとって読んでみた。

 

■新しく知った知識/視点(書籍本文の引用/一部編集)

熱狂へのステップ:理解、観察、視覚化、評価とブラッシュアップ、実現

「難しい判断や理解できない問題で行き詰った時には、自分が知っているかぎり頭の切れる人間に相談することだ」これが問題解決のためのネットワーキング・アプローチ

「上品な(ファイン)」な受け答えには情報もなく、価値もなく、意味もない。企業は顧客にたずねるべきではない

新しい経験をしているときは、細心の注意を払うことだ。特に、あなたを悩ませる事柄について書きとめる。

「左利きの人の身になる」という原則。顧客の多様性への対応

人とは少し違うやりかたで物事に取り組む人たち、ルールを破る人びとを見つけよう。

迅速なプロトタイピング。ジェフ・べゾスは、ウェブ規模の年間成長率が2300%であるという予測記事を見て、数週間のうちに仕事をやめ、行先を運転手に告げる前に引っ越しトラックに積み込んだ。西に向かうよう運転手に指示を出し、翌日、運転手に電話をかけ、シアトルに決めたと告げた。年率2300%で成長している場合、数週間が勝負だから。

無味乾燥な報告書や立体感の乏しい図面を却下するのはたやすいが、模型はしばしば相手を驚かし、気持ちを動かして、新しいアイデアを受け入れてもらいやすくする。

ボディランゲージとしてのオフィス・スペース。あなたの会社は正しいシグナルを発しているだろうか?オフィス・スペースは企業方針に反していないだろうか?

エンジニアは平素から面白いものを集める訓練をしておかなければならない。全員の収集物を提供してもらい、テック・ボックスとしてシェアする仕組みを作った。

種まきのヒント:雑誌の購読とネットサーフィン、映画監督の視点、一般公開する、さまざまな主張に耳を傾ける、アウトサイダーを雇う、違う人間になってみる、二種類以上の仕事ができるように訓練する

会社を前進させる創造的な方法をスタッフがつねに考えている会社であれば、最後にはかならず成功するのだ。副大統領とコンタクトするため、ジョギング中に話かけたスタッフ。

イノベーションのステップを踏んでいくときは、名詞だけではなく動詞で考えるようにしよう。革新的な会社や強力なブランドは「経験」という言葉につながっていることがわかるだろう。

メルローニ社向けの小型コントローラのデザイン。本来の電力使用量管理サービスだけでは、顧客は装置のことを忘れてしまい、付加価値があるとは認められない。コミュニケーションハブとしても使えることを提案。天気予報、買い物リストなど。家庭にこれがあったらいいと思わせる生き生きとしたシナリオを採用したことが画期的。

コードレスマウスの例。リスクを起こすことに不安を抱き、安易な道を選ぶと、イノベーションを世に出すことができない。

リナックスの例。最強のルール破りのなかには、金儲けなど眼中にない人々がいる。彼らは独自の考えをもっているが、自分の目標の途方もなさについてはほとんど意識していない。トーヴァルズは世界全体のために全く新しいオペレーティングシステムを作りたかった。

デザインをシンプルに。道路で曲がる回数を少なくしてやれば、より確実に目的地にたどり着ける。機能狂のいるところ、つまり無駄がたくさんあるところには、シンプルにするチャンスがある。

 

■感想 

約20年前の本なので少し事例が古いが、当時の経緯を知っている分、よく理解できるし、考え方は古びない。事例の中には、ようやく今になって普及してきた技術もある。着眼点も古びない。あとは、技術やインフラが追いつくのみ。

 

個人的な感想:★★★☆☆(3.0)

スマホ脳

書名:スマホ

著者:アンデシュ・ハンセン

訳者:久山葉子

 

最初のスマホiphone 3GSだった。あれから10年以上使い続けていることになる。手に取った当時は、自由度の高さ、新しい体験に感動したが、今ではすっかりスマホに囚われている。スマホの依存性はヘロイン並みという言葉が目に入り、新刊のこの本を手に取ってみることにした。

 

■新しく知った知識/視点(書籍本文の引用/一部編集)

・睡眠、運動、そして他者との関わりが、精神的な不調から身を守る3つの重要な要素

・人類の進化の歴史の大半は脅威からいかに身を守るかが重要な世界で、その世界にかかる選択圧は、「周囲の危険を敏感に察知し、闘争/逃走の準備する」という能力に秀でるものが優位になる世界だった。周囲の環境を理解するほど、生き延びられる可能性が高まる。

・大昔、感染症などのリスクがあった時代には、脅威に囲まれている(強いストレスがある)ときに、そこから逃げる行動ベースの免疫が培われた。これがうつと関係するのでは?

 ・脳は新しい情報を欲する。スマホのページをめくる度にドーパミン(報酬物質)が放出される。実は、今読んでいるページよりも「次のページ」に夢中になっている。報酬システムを作動させるのは、何かが起こるかもという期待/不確かな未来への期待。ドーパミンの最重要課題は人間に行動する動機を与えること。「

フェイスブックやインスタグラムはいいねがつくのを保留することがある。そうやって、私たちの報酬系が最高潮に煽られる瞬間を待つ。刺激を少しずつ分散することで、デジタルなご褒美への期待値を最大限にできる。

・複数の作業の間で集中を移動させることで、気持ちがよくなる。あらゆる刺激に迅速に対応できるよう、警戒態勢を整えておく必要があったから

・情報の固定化には、情報をその人の個人的体験と融合させる必要がある。本当の意味で何かを深く学ぶためには、集中と熟考の両方が求められる。ウェブページを移動している人は、脳に情報を消化するための時間を与えていない。

スマホほど巧妙に作られたものが他にあるだろうか。ちょっとした「ドーパミン注射」を1日に300回も与えてくれるなんて。だからスマホのことを忘れられない。一緒に夕食を食べる仲間がつまらなく思えるほど。

ヒエラルキーにおける地位が精神状態に影響するなら、この接続された新しい世界ーあらゆる次元で常にお互いを比べあっている世界が、私たちの精神に影響を及ぼすのはおかしなことではない。

・生死にかかわる情報だから、私たちは脅威や紛争のニュースに各段に興味をもつようになった。

・脳は体を動かすためにできている。そこを理解しなければ、多くの失敗を重ねることになるだろう。

・身体の状態がいい人はストレスシステムを事前に作動させる必要がない。脅威かもしれない対象を攻撃したり、逃げ出したりする体力があるからだ。それが不安の軽減につながる。

・週に2時間の運動が知能に良い影響を与える

 

■感想

人間本来の性質と、スマホがもたらす環境とのミスマッチが、スマホ依存を生み出している。暇があったらスマホを弄る自分は、新しい情報への期待に突き動かされているだけということを、客観的に捉えることができた。自分の意志でスマホを見ているのではなく、欲求により突き動かされているという方が正しいのかもしれない。

スマホ依存から脱する方法は、手の届かない場所におく、電源を切る、使う時間に制約をかける、ということなのだろう。電源を切ると、立ち上げの時間で冷静になる時間ができるので良いスマホ依存対策になるだろう。本文にもあったように、集中力をそがれないようにする効果も期待できそうだ。

最近読んだ「サブカルスーパースター鬱伝」でも「運動しない文科系は鬱になる」というフレーズがキーワードになっていた。日常に運動を取り入れるようにしようと思う。

技術者として、「人間がテクノロジーに順応するのではなく、テクノロジーが私たちに順応すべき。もっと人間に寄り添ってくれるような製品を」 という言葉は心に留めておきたい。

 

個人的な評価:★★★★☆(4)

EV.Café 超進化論

書名:EV.Café 超進化論

著者:村上龍 坂本龍一

 

10年以上前に購入し、積読になっていたが、断捨離のため斜め読みをした。菊池成孔の影響で、ニューアカデミズムに興味があったので、購入したのだと思う。

 

■新しく知った知識/視点(書籍本文の引用/一部編集)

村上龍

・ポップということは大工場でどんどん生産して物ができるわけだから、結局、すべてがブロイラーなわけですよね。そこに血とか汗とか涙とかいうものはなくて・・、人工的なものがどんどん送り込まれてくるわけです。それを引き受けてアートしたのがポップアートだと思うんです。

・日本に仏教なりキリスト教なりマルクス主義なりが入ってくるときにはすべて文物として入ってくるとかって言うじゃない。・・俺の体験でアメリカだけは文物じゃなかったと思うわけ。文物じゃなくて混血児だと思うんだよね。混血児ができれば文物じゃないと思うんだ。

 

坂本龍一

・人間の官能に訴えるパターン・・。モーツァルトぐらいまでは何となくわかる・・。でも、それ以前になると、人が何故この音の動きに感応していたのか分からない・・。

・「ブレードランナーレプリカントの場合は記憶を企業によってプログラムされていて、寿命が4年しかない。人間の場合もDNAというシステムや文化とういうシステムによって記憶がプログラムされているわけで、寿命が70年であるというだけの数値の違いだけしかない。

・テクノロジーが進歩して、外部というのがなくなってくるわけ(※)。すべてが内部になってくる。そうすると。脳の情報が持っているイデア、青写真なくしてテクノロジーは動かないわけで、しかも、それを完全に実在化することに極端に走っていくわけね。(※註:他人の力を借りなくても、一人で作り上げることができるということか)

 

河合雅雄

・草食獣は集合して仲良くするという親和性をもとにした社会をつくっているが、肉食獣は拮抗性とか争いとかそういうものを基調にした社会を作っている。草食獣的な傾向というのはいわば善の方向、肉食獣的な傾向はいわば悪の方向。両方持つ変な動物が人間なんです。

・牧畜と農耕という生業が出てくるのが一万年位前。それ以前の狩猟採集社会とどこが違うかといったら、一つは貯蔵ということ、つまり所有ということです。今の狩猟採集民というのはほとんど所有欲がありません。

 ・ただの思弁じゃなくて、とにかく対象の中に自分を放り込んでみて考えるということが、「考える脚」だと思う・・。

 

浅田彰

・日本は極度の集積性、ものすごい加速の累積性みたいなことで質的に違うものをうむんじゃないか。・・アメリカはパワフルなんだけどさ、でかいということは拡散しているということでもあるしね。日本は非常にひ弱なんだけど、小さいところでガーッっと集中的にやってるから、なんかわけの分かんないブレークスルーが起こる可能性がある。

・あらかじめ感性というものがあるとか、テクノロジーがそれをあとから破壊するとかというのは嘘で、実際にはカメラ・オブスクラとフェルメールとか、連続写真とフランシス・ベーコンとかの関係を見ればわかるように、テクノロジーこそが完成をつくるとうことがある

 

 ■感想

混血児としてアメリカが日本に入ってきたという村上龍の発言が印象的だった。彼にとってのアメリカ原体験なのだろう。浅田彰の鋭い指摘は、現代にも重要な意味を持つと感じる。サルとの差異/共通点を通して、ヒトとは何かを見つめる河合雅雄の視点も面白い。

全体としては同時代に読むべき書籍と感じる。自分の理解力不足、知識不足は棚に上げるが、対話集ということもあり、行間に含まれる時代の空気を読み解けず、十分、理解ができない部分もあった。

 

個人的な評価:★★☆☆☆(2)

傾聴のコツ―――話を「否定せず、遮らず、拒まず」

書名:傾聴のコツ―――話を「否定せず、遮らず、拒まず」

著者:金田諦應

 

普段、自分ばかり話して人の話を聞いていないという自覚がある。自分でも変えたいと思っていながら、なかなか、変えることができないため、タイトルを見て手に取ってみた。

 

■新しく知った知識/視点(書籍本文の引用/一部編集)

・あなたが大事な友を得ようと思うならば、相手の話をしっかり聴かなければならない、ということです。自分の話ばかり聴いてもらって、相手の話には耳を傾けないという態度では、その人と深い人間関係を築くことなどできません。あるときは聴いてもらい、あるときは聴いてあげてこそ、本当の友情が芽生えるはずです。

・「わかるよ」ではなく、「伝わったよ」と言う。「わかるよ」というと、「いや、この気持ちは誰にもわからないよ」と思う

・悲しみはどうしてもあります。これが「慈悲」の「悲」です。 しかし、それでもかかわっていかざるを得ないという切なる気持ち。それが「慈」なのです。 悲しみ、苦しみに共感し、その場に踏み止まる姿勢が「慈悲」です。

・男性同士のコミュニケーションでよく出てくるのは「なるほど」で、女性同士では「わかる〜」なのだといっていました。つまり、男性は相手に「理解」を求めるコミュニケーションをしようとするのに対して、女性は相手に「共感」を求めるコミュニケーションをしようとする

 ・相手の話を「全肯定」するときに、聴く側は「自己否定」をすることが必要です。 人はみな自分がこれまで積み重ねてきた知識や経験があります。それが自分のフレームをつくっているのですが、その枠におさまらない人がいると、その人を拒絶しようとしてしまいがちです。

・「傾聴」でいうところの「自己否定」は、「自己向上」のためのものです。自分のフレームをなくしてしまうことではありません。 相手の話を聴いていて、自分のフレームにおさまらないものが出てきたとき、そのフレームをもう少し広げたり、ずらしたり、柔軟に変形させたりすることです。自分のフレームを自由自在にコントロールすることが大切です。

・自分のフレームを壊すには、 「自分が思っていたことは間違っていたかもしれない」 「こういう考え方もあるのだな」 と、自分を疑い、相手を尊重する姿勢が必要です。常に「対等」な目線で接していなければなりません。

・黙って話を聴いてくれる営業マンはお客の信頼を集めます。商品知識などは二の次ではないでしょうか。自分が売りたいものを売りつけようという営業マンは、お客の話であってもまともに聴こうとはしません。

・自分の価値観を「上書き」していくことです。「別名保存」ではなく、「上書き」ですから、もう元には戻せません。だから、上書きするのは勇気が必要です。 仕事でも、上司は自分の価値観を上書きしていく勇気を持つべきです。その場に留まるのではなく、新しい価値観を得て、新しい自分に成長していくことが必要です。

・自分の価値観や思い込み、筋書きを捨てること、そうした執着を解き放っていくことを、仏教の言葉で「 放下 着」といいます。 会社の仲間に対して、「こうしてほしい」「ああなってほしい」という執着を放下して、一人の人間として尊重することです。  

  

 ■感想

自分の価値観/フレームをアップデートすることで、聞く耳を持ち、自分を成長させるというメッセージは良く伝わった。宗教家で、震災の被害者との対話活動をされてきた著者ということもあり、喪失に対してどう向き合うかというご経験を元にした著作だったため、ビジネス面で役立てたいという私の目的とは少しずれていたように思う。

 

個人的な評価:★☆☆☆☆(1.0)

中学生にもわかる化学史

書名:中学生にもわかる化学史

著者:左巻健男

 

大学生になったばかりの教養課程の授業で科学史/科学哲学の授業が非常に面白かった。歴史的な発展の過程を知ることは、ある分野の理解を深めるのに役立つという実感がある。専門が化学ということもあり、手に取ってみようと思った。

 

■新しく知った知識/視点(書籍本文の引用/一部編集)

・化学は、物質の「構造」と「性質」、および「化学反応」の3つを研究

・スクールの語源スコラは「暇、余った時間」という意味。

・(アレクサンドロス大王の時代?)に知られていた元素は、7つの金属元素、金、銀、銅、鉄、スズ、鉛、水銀、非金属元素では炭素と硫黄。エジプト人はさまよえる星が太陽、月、金星、火星、土星、木製、水星と7つあり、既に知られていた7つの金属を結びつけた。

 

〇科学者としての側面、そして生き様

ニュートン:最後の錬金術

パスカル:圧力の単位、考える葦

・ボイル:実験結果を失敗も含めて報告、実験重視の姿勢、近代化学の祖

・キャベンディッシュ:神経質で内気でとくに女嫌い

ラボアジェ:徴税請負人、ギロチンで処刑

・ドルトン:時間が惜しくて教員を辞め、一生独身。自身の色覚異常も研究対象

・ファラデー:製本工、デービーの講演記録の製本で認められる。電気化学の祖

・ケクレ:リービッヒの講演に魅了され、建築学科を辞め化学科へ。結合手

長岡半太郎:水銀還金実験。水銀から陽子1個を除去する

・ダイナマイト:永遠に戦争が起きないようにするために、

        驚異的な抑止力を持った物質か機械を発明したい。

 

〇実験の工夫

・酸素の発見:プリーストリ

 水銀灰を凸レンズで加熱して酸素を分離

・地球の質量の測定→万有引力定数の算出:キャベンディッシュ

 730gの鉛球と160kgの鉛球の間に働く引力を測定

・ナトリウム、カリウムの発見:デービー

 250枚の金属板を使った電池で加熱溶融した水酸化物を電気分解

 

 

 ■感想

”中学生にわかる”というタイトルから、化学の歴史は良く知らないという読者には、発見の歴史が分かったり、先人の創意/ブレイクスルー思考が分かる良い書籍。科学者の人間としての側面が知れた点は良かった。化学の歴史をある程度知っている私にとっては、語り口が易しすぎることもあり、満足度が低かった。

 

個人的な評価:★☆☆☆☆(1.0)

葉隠入門

書名:葉隠入門

著者:三島由紀夫

 

学生時代、三島由紀夫が最も好きな作家だった。彼の修飾の多い華麗な文章を読み進めることで、頭の中に想起されるイメージに幻惑されるような感覚が大好きだった。

久しく小説を読むことも無くなってしまったが、没後50年ということで、昔読み始めて途中になっていた葉隠入門を再度手に取って読んでみた。若い自分には、人生訓は読み心地が良くなく、途中で辞めてしまったのだと思う。

 

■新しく知った知識/視点 (書籍本文の引用/一部編集)

三島由紀夫解説部分 

・しかし死だけは「葉隠」の時代も現代も少しも変りなく存在し、われわれを規制しているのである。(中略)毎日死を心に当てることは、毎日生を心に当てることと、いわば同じだということを「葉隠」は主張している。われわれはきょう死ぬと思って仕事をするときに、その仕事が急にいきいきとした光を放ち出すのを認めざるをえない。

・時は人間を変え、人間を変節させ、堕落させ、あるいは向上させる。(中略)毎日毎日これが最後と思って生きていくうちには、何ものかが蓄積されて、一瞬一瞬、一日一日の過去の蓄積が、もののご用に立つときがくるのである。これが「葉隠」の説いている生の哲学の根本理念である。

・人間の自由意志の極致に死への自由意志を置く。

・もし思想が勘定の上に成り立ち、死は損であり、生は得であると勘定することによって(中略)、自分の内心の臆病と欲望を押しかくすなら、それは自分のつくった思想をもってみずからを欺き(中略)、ことにほかならない。

・近代人の誤解は、まず心があり、良心があり、思想があり、観念があって、それがわれわれの現行にあらわれると考えていることである。(中略)。ほんの小さな言行の瑕瑾が、彼自身の思想を崩壊させてしまうことを警告している。

・外面の哲学が美の哲学と結びつく

 

〇山本常朝原著部分

・きのうよりは上達した、きょうよりはさらに上達した、といって、一生のあいだ日々仕上げていくものなのである。修業とは、このように終わりのないものと言えよう。

・馴れしたしむようになっても、はじめて会ったころのように、慎みの心をもって接すれば、仲たがいなど起こりはしないものである。

 

 ■感想 

三島由紀夫の最後までに至る日々は、「死を敗北としてではなく、完成の頂点としてとらえる」ための日々だったのだろう。”死"を参照点として、"死"に照らされた今を"生"きるという考え方は、スティーブ・ジョブズの「今日が人生最後の日なら、」の言葉にも相通じるところがある。

三島由紀夫の小説に高い評価をしている個人的なものさしからすると、評論作品ということで評価は低めになってしまいました。

 

個人的な評価:★★★☆☆(3.0)

1993年の女子プロレス

書名:1993年の女子プロレス

著者:柳澤健

 

柳澤健氏の著作は、アントニオ猪木UWF、棚橋と中邑の3冊を読了済みで、いずれも夢中になって読んでいた。『1993年の女子プロレス』はAmazon Prime Readingで見つけたため、女子プロレスラスタとんねるず?の豊田真奈美や、1990年代末のキッスの世界しか知らないにも関わらず、読んでみた。

 

■新しく知った知識/視点 (書籍本文の引用/一部編集)

 

 ・北斗晶井上京子は、相手を使って自分を表現する力がズバ抜けてる

・レスラーはお客さんのニーズに合わせつつも、その上を行かなければならない

・表面に出ている緊張関係と、内部の緊張関係が一致してるところが、全女という団体の恐ろしいところ

・「人の見えないところで練習しろ、人に見えるところで練習してても強くなれない」

・みんなが揉めてたり、うまくいってないと感じたときは、小鉄さんは選手全員をリング上に集めて「輪になって隣の人と手をつなげ」って言うんです。「隣の人の手を握れ。その感触を覚えておけ。これがおまえたちの仲間なんだから、みんな思いやりを持たないとダメだぞ」って。

北斗晶長与千種、二人に共通してるのは、つねに考えていること。「どうしたらマスコミに話題を提供できるか」と頭を使っていました。

・最終的に必要な要素は人間味じゃないですか。人間力。北斗やブル、千種にしても人間的な魅力があったからこそ成功したんですよ

・「ワンセット 50 回の腕立てや腹筋は、人より絶対1回多くやれ」「人が 50 回やってるところを 51 回やれば、それだけで1年で365回多くなる」って。そうすれば人より鍛えられるんだっていうことです

・プロレスの究極の目的は、観客の心を動かして次の試合にも足を運んでもらうことにあります。アクロバットを演じることではなく、観客の心理を直接動かす。

・北斗選手のほうがフリーでやっていたぶん、ギラギラしてるっていうか、1回でもポシャッたら使ってもらえなくなるという危機感がある感じがした。1試合1試合に懸ける思いというか、自分を表現するっていう、飢えた部分やハングリー精神が凄くありました

・LLの根本は山本小鉄さんの教えである「プロレスはお互いあってのもの」「思いやりが大切だ」ってところから始まってる

 

■感想

日本女子プロレスは団体内の人間関係がそのまま試合に表現されていたり、ガチンコ(押さえ込み)が取り入れられていたということは、全く知らなかった。プロレスにおける特異点かもしれない。最狂という表現も的をを得ている。

長与千種北斗晶が天才であること、アジャコングが男子プロレスファンを女子プロレスに引き込んだこと、女子プロレスが男子プロレスファン向きになったことで、逆に女子プロレス志望の若手が少なくなったこと。全日本女子プロレス末期の歴史感/構造が良く理解できた。当時の歴史を追ってみたいと感じた。

あと、山本小鉄のエピソードが素晴らしい。

インタビュー形式ということもあり、柳澤健氏の他の著作と比べ、冗長であるように感じる。最終章「北斗晶と対抗戦の時代」が本書籍のエッセンスであると思う。北斗晶のインタビューが収録されていない点が最も残念。

 

個人的な評価:★★★☆☆(3.0)